Q‐K1.うちの会社は、シフト制で勤務日によって労働時間が異なります。パートやバイトの多くの従業員が、忙しい労働時間の長い勤務日に年休取得を申請してきており、人員確保に四苦八苦しております。どのような対応が考えられるでしょうか?

 A‐K1 おそらく、その従業員(パート・アルバイト)の方々は、年休の手当が「所定労働時間(を)労働した場合に支払われる通常の賃金」ということを知っているため、どうせ年休をとるなら、多くの時給をもらいたいと考えているための行動と思われます。

 ところで、上記の方法以外に年休の手当の支払方法には、①平均賃金、②健康保険法で定められた標準報酬日額に相当する金額、の2種類が許されています。

 この2つの方法は、年休取得日の所定労働時間が多いか少ないかに影響せずに、支払金額が一定額のため、ある程度ですが分散できる可能性が期待できます。

 他方、年休の手当でなく、長い時間働きたくないという理由であると効果は薄いと思います。

 そのため、目的を見極めて、労使間でのコミュニケーションを密にし、帰属感などを高めるなどの労使関係改善に努めることも必要と思われます。

 


Q-K2 従業員の一人は、子供も多く、生活費を稼ごうと、人一倍に残業をしたり、年次有給休暇(年休・有休)を取らずに頑張っています。 その従業員から、年次有給休暇(年休・有給)を取得していないのだから、その分の手当を出さないのは、おかしいのではないかと言われました。 何がおかしいのか?分からず、頑張っているので、年休を取らない分の手当を払おうとおもうのですが・・・。

A‐K2 一見すると、従業員思いの経営者に思えてしまう質問です。

 しかし、法的な問題だけでなく、労務管理の問題も生じさせかねない問題です。というのは、年次有給休暇の趣旨から考えると、理由がわかります。

 まずは、労務管理から説明すると、年次有給休暇の趣旨は、主目的として心身のリフレッシュであって、手当は副目的です。この質問は、主と副が逆転しているからです。

 また、人一倍残業をしている従業員ですから、長時間労働の可能性があります。年休取得の代わりに、手当を出すことは、長時間労働の助長させ、または長時間労働の弊害(メンタルヘルス不調や脳疾患・心疾患)を予防する可能性がなくなってしまうともいえます。

 なお、長時間労働の予防として、年次有給休暇の活用は、非常に有効です。

 他方、法的に考えると、通達は、「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第三十九条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第三十九条の違反である」(昭30.11.30 基収4718号)とあり、質問の手当支払うことと年休取得しないことは、「年次有給休暇の買上げの予約」と「請求し得る年次有給休暇の日数を減じ」に該当すると考えることができるため、労働基準法違反になると思われます。

 以上から、労務管理上、長時間労働の助長させるだけでなく、法的にも労働基準法違反となることから、やはり、年休を取らない代わりの手当を出すことは、してはなりません。

 本当に、その労働者が頑張っていると思っているのであれば、生活費を稼ぐための残業は労務管理上あまり良いもの言えませんので、業務上の必要性に応じた残業だけを命じて、減少した残業代を他の側面から評価することをお勧めします。


Q-K3 8か月の期間を定めた有期雇用の従業員がおり、育児休業をする正規社員の代替要員として雇いました。育児休業中の従業員が職場復帰することは確定しており、その有期雇用社員にしてもらう仕事がないので、契約を結ぶ際に、お互い(労使とも)に1回限りでの契約で更新しないことを約束(合意)しております。 しかし、このような従業員にも、年次有給休暇(年休・有休・有給)を与えなければあらないのでしょうか? もちろん、今までの従業員には年次有給休暇(年次・有休・有給)を与える必要があることは理解しており、実際に雇った日から6か月後には与えています。

A‐K3 結論から言うと、年次有給休暇を与えなければなりません。

 おそらく、年次有給休暇について、法律上の「与える」という意味が混乱しているからと思います。

 「与える」の混乱原因について、2つに区別しなければなりませんが、①労働基準法第39条第1項等での「年休権の取得(発生)」と、②労働基準法第39条第5項での年休権の「時季指定権の行使」に区別をしていないからです。 

 そして、質問の意図は、8か月という短い有期雇用の従業員について、休暇を与え(労働義務の免除をし)その分の手当てを支払う必要はあるのか?と思いますが、法律的には①「年休権の取得(発生)」をさせなけければならないのか(つまり年休権を「与える」のか)?に絞られると思います。

 その理由は、①「年休権の取得(発生)」がなければ、②(取得(発生)後の)年休権の「時季指定権の行使」ができないからであり、①の付与後に②の行使があって、初めて「実態として、休暇を与えその分の手当てを支払う必要が生じる」からです(時季指定権説と呼ばれるものです)。

 では、8か月という短い有期雇用の従業員には、①「年休権の取得(発生)」させる必要があるか?ですが、6か月後の付与日には「労働契約」は継続しているはずですので、あとは取得(発生)要件を確認して、要件を満たしていれば、①「年休権の取得(発生)」させなければなりません。

 つまり、少なくとも①「年休権の取得(発生)」は、取得要件を満たせば「与える」なければなりません。

 そのあとについて、その有期雇用の従業員が②「年休権の時季指定権説の行使」をした場合、使用者は、「実態として、休暇を与えその分の手当てを支払う必要が生じる」のです(この②「年休権の時季指定権の行使」は、このページ下記の動画にて説明していますのでご覧ください)。

 

 ところで、その有期雇用の従業員には、やはり①の「年休権の発生(取得)」した旨を伝えたほうが良いと思います(私感では、伝えるべきと思っています)。労働基準法上、伝える義務の明記はありませんので、直ちに違法とは言えませんが、配慮がなく不当性を問われかねませんし、実をいうと、多くの労働相談では、①「年休権の発生(取得)」を伝えないことによって、会社に対する不信感が生じるのです。すると、トップページで記した「労働問題の端緒」となるのです。

 

 

 なお、上記の時季変更権説の①「年休権の取得(発生)」と②「時季指定権の行使」を身近な例で説明すると、①は、一定数の缶ジュースを労働者に与えること、②は、与えられた缶ジュースの範囲内で労働者が自分の意思で飲むか飲まないかを決定すること(缶ジュースを飲むことによって、使用者は、労働義務日の免除と、その分を賃金相当額の支払いが義務となります)になるでしょう。